新種は深海に潜らなくても見つかることがある。ドイツ・テュービンゲン大学で古生物学を学ぶベネディクト・ケストレ氏とキュレーターのイングマール・ヴェルネブルク氏が、収蔵庫の乾燥標本の中から、プエルトリコ産で体長32.2センチの巨大等脚類を見いだし、新種と確認。Bathynomus tuebingoborikensis と命名した。学名は「テュービンゲン」(Tübingen)と、タイノ語でプエルトリコを指す「ボリケン(Boríken)」を組み合わせたもの。論文は『Scientific Reports』に掲載され、大学やゼンケンベルクなどが2026年10月8日にプレスリリースを発表した。

画像出典:Julie Klaess/University of Tübingen
この標本は1980年代、ドルフ・ザイラッハー氏がプエルトリコの研究ステーションで入手し、教材として持ち帰った「巨大」な乾燥個体で、サイズは「colossogiant」級に分類される。Bathynomus属の深海性巨大等脚類(いわゆるダイオウグソクムシの仲間)は体長約50センチ、重さ数キロに達し、水深約2,500メートルまで潜る。見た目はダンゴムシやワラジムシを何倍にも拡大したようで、深海ファンの間ではスター的存在だ。教材棚で何十年も眠っていた「大きな虫」が、地名と大学名を背負った正式な新種になるとは誰も思わなかっただろう。
学名に込められたテュービンゲンと先住民の地名
種小名 tuebingoborikensis は、研究地と、標本の産地の先住民による地名の両方に敬意を表したもの。ちょっと長いが、物語は覚えやすい。教材用の標本が、数十年を経て学生とキュレーターによって真剣に再同定されたのだ。系統解析によると、この新種はメキシコ・ユカタン半島沖の巨大等脚類に近縁で、カリブ海周辺のBathynomus一族の系統図にまたひとつピースが加わった。
博物館関係者にとって、このニュースはやさしいリマインダーのようなものだ。収蔵庫は冷凍庫ではなく、まだ論文を生み出しうる宝庫なのだと。一般の読者にとってもポイントはシンプル。科学のブレークスルーは、遠征船の出航からだけ生まれるわけではない。引き出しの古い標本をもう一度測り、比べ直そうとする誰かがいてこそ生まれることもある。
属の起源は1,500万年以上前のメキシコ湾
プエルトリコの標本がドイツの大学で新たに命名されたことは、カリブ海の深海生物多様性にまだ多くの空白があることも示している。同じ研究ではBathynomus属の進化もたどっており、中新世の1,500万年以上前にメキシコ湾で出現し、パナマ地峡が閉じる前、2つの大洋がまだつながっていた時代に分布を広げた可能性が高いという。論文のDOIは10.1038/s41598-026-69097-y。次に「深海の巨大な虫」の写真を見かけたら、思い出してほしい。彼らの祖先は地峡が閉じるより前に、アメリカ大陸周辺の深海の回廊へと散らばっていた。そしてその一系統は、思いがけずテュービンゲンとボリケンを学名に刻むことになったのだ。
教材標本から正式な学名へ。この「収蔵庫の宝探し」は、大学博物館への敬意を少し深めてくれる。静かな棚の中に、次にニュースになる深海の巨人が眠っているかもしれない。
