国民が幸せかどうかを考えるとき、多くの人がまず思い浮かべるのは所得や医療といった「ハードな指標」だろう。ところが国際学術誌『PLOS One』に発表されたばかりの研究は、意外な要素を比較に持ち込んだ。猫だ。研究チームが93か国のデータを分析したところ、飼い猫が多い国ほど、国民全体の幸福度も高い傾向があることがわかった。

画像出典:EurekAlert!/PLOS(Photo: Amber Kipp, Unsplash, CC0)
この研究は、メキシコ科学・人文・技術・イノベーション省(SECIHTI)のハビエル・I・ボラス=レオン氏が、フィンランド、ラトビア、米国の研究者と共同で行ったもので、9月30日に発表された。チームは93か国の世帯収入、医療支出、国内総生産(GDP)、人口1万人あたりの飼い猫の数、トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)の感染率を整理し、各国の国民幸福度指数と照らし合わせた。
猫が多いほど幸せ、でも猫の寄生虫はその逆
結果はなかなか興味深い。データによると、飼い猫の密度が高い国ほど国民の幸福度スコアも高く、これは「ペットを飼うと心身に良い」とする多くの過去の研究と同じ方向性だ。一方で、トキソプラズマの感染率が高い国ほど、幸福度スコアはむしろ低かった。トキソプラズマは猫から人にうつることがある寄生虫で、猫が主な宿主だ。科学ニュースサイト『ScienceAlert』によると、世界の人口の最大3分の1がトキソプラズマに感染したことがある可能性があり、ほとんどの人にとっては通常無害で症状もないが、一部の弱い立場の人には問題を引き起こすことがある。
研究チームにとって最も意外だったのは、猫が多い国でトキソプラズマへの曝露が多いわけではなく、関連はむしろ逆だったことだ。著者らは、人と動物と感染症の関係は、動物がいるかどうかだけでなく、触れ合いが生じる社会的・経済的・環境的条件にも左右されることを示していると説明する。ボラス=レオン氏は、これは「猫が多いほど寄生虫への曝露も増える」という単純なイメージを覆すものであり、ペットの飼育管理、衛生状態、社会経済環境が重要な役割を果たしている可能性があると指摘する。
研究チーム「猫を飼えば幸せになるという意味ではない」
結果は目を引くものの、著者らはこれがあくまで「国レベル」の関連であることを強調する。「猫が多いと人が幸せになるとも、トキソプラズマが人を不幸にするとも言えない。ただ、こうしたパターンはさらに研究する価値があるほど興味深い」。著者らは、背景に経済的な要因があるのではないかと推測している。たとえば所得が高く公衆衛生が整った国では、人々がペットを飼いやすく、同時に感染率も低いのかもしれない。『ScienceAlert』も、豊かな国ほど猫は室内で飼われ、定期的に動物病院にかかり、市販のキャットフードを食べていることが多いと伝えている。
研究では中国の例も挙げている。研究で使われたデータでは、中国の幸福度指数は対象国の平均をわずかに上回る(5.97対5.72)一方、人口1万人あたりの飼い猫の数は平均を大きく下回っていた(376対989)。著者らは、今後の研究では飼い主と非飼い主を個別に追跡し、猫と幸福感の関係を長期的に観察すべきだとしている。猫好きにとって、この研究はまだ「もう1匹飼う」ための科学的根拠にはならないが、猫と過ごす時間にくすっと笑える理由がまたひとつ増えたのは確かだ。
出典:PLOS プレスリリース/EurekAlert!(2026/9/30)、ScienceAlert(2026/10/5)、PLOS One 論文
